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大阪地方裁判所 昭和26年(わ)2185号 判決

本籍

広島県深安郡中条村字西中条

住居

大阪市北区曾根崎上一丁目二十四番地

機械工具商

松岡友三郎

満二十八年

右所得税法違反被告事件

検事某関与

主文

被告人を懲役四月及罰金十万円に処する。

右罰金を完納することが出来ないときは金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

被告人は肩書住居地で機械工具商を営む者であるが所得税を逋脱する意図の下に本勘定の外に別途勘定を設け、取引の一部を別名を以て為し之を本勘定に計上しないで別途勘定に算入する等の方法に依り所得の一部を隠匿し、昭和二十五年一月一日から同年十二月末日迄の間に百九十六万八千五百円の所得(此の所得税額九十八万九千五百円)があつたのに拘らず、昭和二十六年二月末頃所轄北税務署に対し、同年度の所得額五十一万円(此の所得税額十八万九千八百七十五円)と過少に記載した虚偽の確定申告書を提出し、因て同年度の所得税七十九万九千六百二十五円を逋脱したものである。

証拠

一、松岡トシ子に対する大蔵事務官の第一、二回質問顛末書

一、矢部正一郎、相馬千里、大槻芳蔵、大和章偉、切本昭三に対する大蔵事務官の各質問顛末書

一、押収に係る表売上帳一冊、表仕入帳一冊、表勘定納品表控六冊、同仕入伝票綴一綴、売上帳一綴、仕入帳一綴、納品書綴三十六冊、仮装名儀納品書控十冊、仕入伝票綴一綴、昭和二十五年末卸表一綴(昭和二十六年裁領第八六三号の一乃至一〇)

一、被告人作成の昭和二十五年度所得税確定申告書(写)

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の当公廷に於ける供述

弁護人は、昭和二十五年度所得税の確定申告に付ては昭和二十六年三月二十日迄期限が延長せられたが、被告人は同年二月末頃一旦判決の様な確定申告書を提出した後三月十八日修正申告を為し(所得額百八十万円)受付けられたものであるから其の範囲に於ては、逋脱罪は成立しないと主張する。而して昭和二十五年度所得税確定申告期限につき弁護人主張の如き措置がとられたことは検察官も認めるところであり(右措置は単なる行政的措置であつて法的効果があるとは考えられない)被告人が右延長期間内に其の主張の如き修正申告を為したことも検察官の認めるところである。然し乍ら被告人は所得税逋脱の目的で判示の如く詐偽不正の手段を講じて所得額を隠蔽し、過少の確定申告を為したものであるから申告納税制度を採用する所得税法の下に於ては、右申告書の提出を以て逋脱罪は成立したものであり、其の後の行為に依り右犯罪には影響を及ぼさぬものと解するのが相当である。尚大蔵事務官作成の臨検捜索顛末書、差押調書、被告人に対する質問顛末書に依れば被告人は右確定申告書提出後同年三月初頃大蔵事務官による査察を受け判示の別途勘定帳簿等を発見せられた後其の主張の如き修正申告を為しているものなることが認められるから自発的に自己の申告の誤りを訂正し修正申告を為した場合とも区別して考えるを要し、単に犯罪発覚後素直に自己の犯行を認め速やかに不足額の納税をしたという効果を認め得るに過ぎず弁護人主張の如く之に依り一旦成立した逋脱罪が消滅するものとは考えられない。

適条

所得税法第六十九条第一項

刑法第十八条、第二十五条

仍て主文の通り判決する。

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